今回は、インターネットの重要な技術の一つ、IRCについて解説します。
IRCの意味
IRCはInternet Relay Chat(インターネットリレーチャット)の略で、インターネット上でリアルタイムにテキストベースのコミュニケーションを行う技術です。これはウェブとは直接関連がなく、インターネット技術を使った特定の通信プロトコールを使用します。ユーザー同士が1秒以内でテキストメッセージを送り合えるのが特徴です。例えば、私が「Hello」と入力すれば、相手もすぐに返信ができる、そんなシンプルなやり取りがチャットの基本です。
チャットの仕組みを図で説明すると、A、B、C、Dの4人がインターネットに接続し、チャットサーバーを介してメッセージをやり取りします。グループ設定があれば、Aさんが「こんにちは」と言えば、それがサーバーを経由してグループ全員に配信されるわけです。このリアルタイムのやり取りが、チャットの魅力です。
現代の代表的なチャットサービスとしては、LINE等があります。LINEは家族や友人、同僚間でテキストメッセージのやり取りを可能にするものですが、基本的な原理はIRCと同じです。絵文字や画像も送れますが、基本はテキストのやり取りです。
IRCやチャットの基本的な仕組みを理解することで、仕事でこれらのサービスに関わる際にもスムーズに話についていけます。知らないと受け身になりがちですが、理解していれば積極的に話に参加できるようになります。また業務においてチャットを使ったり、チャットサービスを提供するというような時には有利になります。
IRCの特徴はその柔軟性にあります。この技術を使うと、理論上数万人、場合によっては数百万人と会話が可能です。これはインスタントメッセージングの原型と言えるでしょう。インスタントメッセージングとは、文字通り即座にメッセージを送れることを意味します。この進化は、私たちのコミュニケーション方法に革命をもたらしました。
かつてメッセージを送るためには、電話をかけるか郵便局に行く必要がありました。しかし、IRCのおかげで、メッセージはほぼ瞬時に送れるようになりました。私自身、オーストラリアで初めてチャットを体験した時、アメリカの少年とウェブに関する質問でやり取りしました。この少年には一度も会ったことがないにも関わらず、彼はいつも迅速に答えをくれました。当時はイスラエル製の人気インスタントメッセンジャーを使用していました。
IRCの利用方法
IRCを使用するためには次の手順は次の通りです。
1. IRCクライアントのインストール
IRCを利用するためには、IRCクライアント(ソフトウェア)が必要です。IRCクライアントにはmIRC、HexChat、ChatZilla、LimeChatなどがあります。
2. IRCサーバーへの接続
IRCクライアントを起動し、IRCサーバーに接続します。日本国内でよく利用されるサーバーにはirc.freenode.net、irc.rizon.net、irc.quakenet.orgなどがあります。
3. チャットルームへのアクセス
IRCサーバーに接続したら、チャットルームにアクセスします。チャットルームには、趣味、仕事、地域などのテーマがあります。
IRCサーバーにアクセスするには、IRCクライアントで「join #チャットルーム名」のコマンドを入力します。
4. チャットの開始
チャットルームにアクセスしたら、他のユーザーとテキストベースでチャットできます。
メッセージを送るには、「message #チャットルーム名 メッセージ内容」と入力します。
これらの手順で、IRCを使って他のユーザーとリアルタイムでチャットをすることができます。
よく使われているIRCクライアント
IRCクライアントにはmIRC、HexChat、ChatZilla、LimeChatなどがありますが、それぞれに特徴があります。
mIRC
Windows専用で、1995年にリリースされた古くからある人気のIRCクライアントです。カスタマイズ性が高く、スクリプトを使った拡張が可能で、直感的なユーザーインターフェースが特徴となっています。
HexChat
Windows、Linux、macOSに対応しており、XChatのフォークとして開発された無料のオープンソースクライアントです。カスタマイズ性が高く、複数のサーバーに同時に接続可能でユーザーフレンドリーなインターフェースです。
ChatZilla
ブラウザベースのアドオンとしてFirefoxに対応しています。シンプルで直感的なユーザーインターフェースが特徴で、ブラウザ内で動作するため、別途ソフトウェアのインストールが不要なので便利です。基本的なIRC機能を備え、拡張性は限られます。
※ http://chatzilla.hacksrus.com/
LimeChat
macOSに対応しており、軽量で高速なIRCクライアントです。シンプルで洗練されたデザインが特徴です。直感的な操作性と安定性が高く、複数のサーバー接続やカスタマイズオプションが提供されています。
これらのIRCクライアントはそれぞれ異なるプラットフォームやユーザーのニーズに対応しており、自分の好みや使用環境に合わせて選択することができます。
IRCの利用者数
今日では、チャットワークスやSlackなどのアプリが主流ですが、これら便利なサービスの原型はIRCによるチャット技術です。LINEやSlackなどを開発したエンジニアたちも、恐らくはIRCの技術を知っており、何らかの形で応用しているはずです。つまり、私たちが今使っているモダンなコミュニケーションツールの根底には、IRCという古いが強力な技術があるのです。
現在では、LINEや、チャットワークス、Slackなどのアプリやウェブベースのチャットを使うことが主流になっているため、IRCを使ってチャットをしているユーザーの数は減っています。
2020年10月、調査会社「GlobalWebIndex」は、世界中のインターネットユーザーのチャットツールの利用状況に関する調査結果を発表しました。その調査によると、IRCのユーザー数は、2000年代前半にピークを迎え、2019年にはピーク時の半分程度になっていると推定されています。
また、2021年12月、チャットツールの開発会社「XChat」は、IRCのユーザー数に関する調査結果を発表しましたが、その調査結果によると、IRCのユーザー数は、2021年にはピーク時の3分の1程度になっていると推定されています。
これらの調査結果から、IRCのユーザー数は、2000年代前半をピークに、徐々に減少していることがわかります。
現代におけるチャットの利用形態
IRC技術の応用として、現代においてはビジネスチャットツールが注目されています。例えば、SlackやChatworkのようなプラットフォームです。これらはIRCの基本的な原理を活用して、企業間や従業員間のコミュニケーション、顧客サポートなどを効率化しています。ただ、私個人としては、これらの即時反応が必要なチャットツールには若干の抵抗感があります。というのも、仕事中に絶えず通知が来ると集中力が散漫になり、作業効率が落ちてしまうというデメリットもあるからです。
しかし、これらのツールが極めて便利であることは否定できません。特に顧客サポートの面では、電話での長時間待ちとは異なり、迅速な対応が可能になります。ビジネスチャットは、取引関係のある間は、いつでもどこでもコミュニケーションが取れるため、非常に効率的です。ただし、取引終了後はログアウトし、その交流が終了する点も、一種のプライバシー保護として機能します。これらのツールは、便利さと負担のバランスをどう取るかが鍵になります。
チャットボット
チャットの応用例として、私が特に素晴らしいと感じているのは、ビジネスでのチャットボットの活用です。たとえば、印刷屋さんのウェブサイトを訪れた際、右下に表示される「質問はありますか?」というのがチャットボットです。これに質問を入力すると、ほんの数分、あるいは数秒で回答が返ってくることがあります。AIが対応している場合もありますが、実際の人間が対応していることも少なくありません。
私がチャットボットに驚いた経験の一つに、電話サービス会社への問い合わせがあります。当時、私は時間がなく、チャットボットを使って質問したところ、数十秒で電話がかかってきました。これほど迅速で具体的な要件から話し始められるサービスは、まさに神業的な接客サービスです。
現代では、企業がウェブサイトで売上を上げるために、Web接客という概念があります。チャットボットのようなASPサービスをウェブサイトに導入することで、より高度で心のこもったカスタマーサービスが提供できます。これは、ウェブサイトの反応率や売上を増やしたい企業にとって有効なツールです。まるで、釣りが下手だった人が高性能の釣り道具を手に入れたかのように、顧客の問い合わせが増えるかもしれません。
このようにIRCというインターネット技術自体は自体とともに廃れていくようになりましたが、IRCの原理はアプリやウェブベースのチャット、チャットボットなどに受け継がれ、多くの人々にパワーと利便性を今でも与えています。
次回はインターネット技術のもう一つの重要な技術である「NNTP」について解説します。